2010年5月27日木曜日

恋するTL

「やっぱ外見より中身でしょ」と彼女は言う。

ひと呼吸おいてから彼女はスマートフォンを取り出しながら「Twitterでね、あーこの人のつぶやきいいなぁ、なんか合うかもって人いて」とタッチパネルをいじりながら話す。「その人よく写真投稿のつぶやきするんだけど、それがね、雰囲気ある写真で、トイデジっていうので撮ってるんだって。いいよねー」「Playing Now♪って付けて投稿してる曲見てもなんか趣味合うっていうか」などと"その人"について嬉々として語り出す。

話を聞きながら昔何かの記事で見た「つい婚」した人が言っていた"文字列に恋をした"というフレーズを思い出した。彼女の場合はTwitterを通じて垣間見えるその人のソーシャルアクティビティ全般に恋をしているということなのかもしれない。

それが"相手の中身を知る"ことでもあるようで、でも一面的でもあるようで、ちょっとからかいたくなって、私は彼女に聞いてみた。

「ちなみに写真はどこにUploadされてるの?Flickr?Picasa?それともTwitpicとかだけ?」

彼女はこちらの質問の意図がどこにあるかわかりかねて少し不思議そうな顔をしつつ、手に持ったスマートフォンで、Twitterで彼の写真投稿のつぶやきを探し出し、私に見せた。

「あ、Flickrね」

偏見だが、写真好きはFlickr、という印象がある。
他の写真も見ていいか一応彼女に聞いて、少し見せてもらう。写真にとくにタグは付けてない。タイトルも"DSCxxxxx.JPG"だ。とくにそういうところは管理しない人らしい。でも確かに写真はトイデジの性質を活かした"雰囲気のある"写真だ。

Twitterのpostもちょっと見せてもらった。fromがWebだ。クライアントは使わない派なのかな。お、iPadに興味があるようだ。でも"iPAD"なんて書いてある。なるほど、そういうところは気にしない人らしい。

そしてTwitterもFlickrもDefaultアイコンだった。

ふんふんと何やらよからぬ詮索をしているかのような私に、彼女はちょっと不機嫌なトーンで「で、写真Upload先がなんなの?」と聞く。

私が感じ取った"彼の特徴"を説明してみる。そして一通り私の言葉を聞いて彼女は「相変わらず歪んだ見方するのね」と苦笑する程度。さすが私の性格をよく知っているだけあるが、でもそれに対してちょっとは反抗してみせる。

「画面から入ってくるぱっと見の情報だけではなくて、内面の垣間見えるところを、そう、外見より中身を見ようとしてるのよ」

と。「へーりーくーつー」と彼女は頬をふくらませて言う。フォローというわけではないが「でも、写真、いい雰囲気ね」と一言付け足しておいた。それを聞いて少しだけ表情が柔らかくなった彼女は、またスマートフォンを自分の手元に戻し、TwitterのTimeLineを最新に更新する。

「あ…」

と声を漏らした彼女は、無言でこちらにスマートフォンの画面を向けた。さっきまで話題にしていた"彼"の最新のTweetが映し出されている。そこには"アイコン変えてみました!"という言葉と、Defaultアイコンから変更された"アニメか何かの女の子"のアイコンが表示されていた。

俗に言う"2次アイコン"の日本人Twitterユーザはよくいるし、私もそういったものに抵抗がないので気にならなかった。しかし、そういえば彼女は、ずいぶん昔のことではあるが以前付き合っていた人が、アニメにばかりに夢中になっちゃって…という理由で別れたのだった。

「アイコンがアニメの人はちょっとなぁー」

案の定、さっきまでのトキメキがどこかにすっ飛んでいったらしい。

「あれ?外見の"アイコン"じゃなくて中身の"つぶやき"が重要なんじゃないの?」

「ほんと、いじわるね」

彼女はそう言った後、紅茶を一口飲み、微かな笑みを浮かべていた。
そんなんだからお互いなかなか彼氏できないのよ、とでも言いたげな口元だ。

※フィクションです